「仕置人」は何故「牙狼」より圧倒的に面白いのか?命運を分けた「魅せ方」のキーワードは「北斗無双」にある【大崎一万発のこれでええんか!? #3】
この7月、パチンコの大型版権機が相次いで設置され注目を集めた。サンセイ『P牙狼冴島鋼牙』と、京楽『ぱちんこ新・必殺仕置人』である。長らく市場を支えてきた人気シリーズの初新基準版であり、現行スペック下では「MAX」となる出玉性能を備えた両横綱の直接対決とあって、設置前から両者比較しての議論がかまびすしい状況だったが…現状、結果は仕置人の完勝。SNS上では牙狼を推したコンサルタント氏がつるし上げに近いツッコミを受け炎上するなど、場外乱闘を含め大いに話題を提供してくれた。
両機種とも新基準下の厳しい保通協試験に適合して販売されたミドルスペック機であり、均した場合の出玉性能に大差はない。なのに、ここまで支持率に差がつくと予想した者は、業界人にもプレイヤーにも少なかったのではないか。僕自身、設置前の段階では、(慶次漆黒のロングヒットもあって)出玉安定感に長けた牙狼に分があるかもしれないと考えていた。しかし…実際に打ってみればそんな「空論」は消し飛ぶ。パチンコとはやはり「魅せ方」次第なのだと、今さらながら遊技の原点を思い出させる対照的な打感であった。仕置人はオモシロイ。牙狼はつまんない。要するにそういうことである。
もちろん、仕置人の一番のウリである「速さ」が、想定以上であったことは大きい。出玉性能に大差ないと申し上げたが、出玉スピードに限れば、2倍ほど(!)も差がある。規制前と遜色ない打感を実現すべく、攻めに徹した京楽の賭けは見事報われたと言っていい。
対して牙狼は、適合率優先の安全策を取った…としか思えない仕上がりである。TUSKで酷評されたモッタリ感は改善されず、高継続機なのに大連チャンしてもイライラため息ばかり出てしまう。これほどの本末転倒もない。
市場評価が固まったことで今後はスピード感重視の機種にトレンドが傾くと予想できるが、ちょっと待て。当たり前だが速ければいい、というものではない。パチンコはスペックと演出とのマッチング、すなわち魅せ方あってこそである。ここまでの速さがなかったとしてもやっぱり仕置人に軍配が上がったと僕は思うし、逆に牙狼がもっと速かろうと、今の演出の作り方では「ほどほど」止まりの評価しか得られなかっただろう。実際以上に速く感じる仕置人、遅く感じる牙狼。大連チャンのドラマを語りたくなる仕置人、二度目はないと疲労感ばかりが強調されてしまう牙狼。
多くの業界関係者が事前評価を繰り広げていたが、魅せ方=演出面を軸にした論評を目にすることはなかった。いや、主観に過ぎない魅せ方だのオモシロさだのに依った資金投入判断を下すわけにもいかないから、過去実績やスペック分析が重視される事情は理解する。しかしパチンコとは「総合芸術」なのだ。スペック、演出、ギミック、デバイス、版権…各要素のバランスで評価されなければならないし、それらをパッケージングするのは、メーカーの魅せ方へのこだわりだ。両機種はここに大きな差があったと感じてしまう。
主観に過ぎないので、いい悪いでなく、好き嫌いでいくつか具体的感想を述べておく。仕置人でまずイイネと感じたのは、サミーの『北斗無双』を良く研究し、換骨奪胎した演出が取り入れられているところだ。仰々しいまでに派手な疑似連演出、偉そうなくせに単体だとアテにならない赤保留、ST中の保留書き換え演出等々。またST回数も無双に合わせてある。仕事人の進化系といえる世界観でもあるし、初打ちからとっかかりのハードルが高くないのは(特に僕のようなオッサン層には)ありがたい配慮である。また、「京楽ってこういう感じだよね」という思い込みをいい方に裏切る違和感演出や、とんでもなく安い展開でいきなり当たる(海物語を彷彿させる)サプライズも絶妙の塩梅で割り込んでくる。ウェブサイトや攻略誌の演出解説を網羅するのが困難なほどの演出総数をベースにしながら、お約束の様式美と意外性を盛り込んだバランス調整は、まさにこだわりを感じる作り込みである。
そして、それら大げさにも程がある演出群が、バカバカしい失笑とならない強烈な連チャン達成感に集約する。サウンドや画面展開の疾走感が、ウリである出玉スピードをより強調する。年配向け版権を、まるでジジババ無視かのようなSFホラー仕立て(まさに牙狼!)に味付けした魅せ方は、センスの固まりと言っていい。新基準でこれほどの台が可能とは、他社へのプレッシャーは相当のものだろう。
対して牙狼。「牙狼らしさ」にこだわり…いや拘泥しすぎて、牙狼好きではないプレイヤーを置き去りにしてしまったように思う。多彩なようで実はシンプルかつメリハリ重視の通常時は、熱心なファン以外には単調に感じるだろう。革新的デバイスであるギガゴーストビジョンも、「そこに行かないと期待できないよね」といらんものに感じてしまう。発展経路の多様さが牙狼の魅力のひとつであり、実際、演出フローを見ると仕置人に勝るとも劣らない作り込みと言えるのだが、それが伝わってこない魅せ方は残念の一言。
ST中の演出に関しても、「とにかく時間をかけなきゃ」という台所事情ばかりが目に付き、ハズレどころか大当りしてすらイラつくという新しい価値観を付与してくれた。
多彩な演出を体験しづらい、確変消化に時間がかかる、ST突入率が低い、新味がない…短時間勝負のプレイヤーに嫌われ、さらには風評もあってこれまでの牙狼好きもが離れてしまったのではないか。規制後の出玉ポテンシャル低下を受けて魅せ方を変えなければならなかったところ、旧来のままの作り方で突き進んでしまったことが大きな敗因であったように思う。
そして、仕置人とほぼ同時期の設置につき、どうしても比較されてしまう不運。打ち比べると…牙狼の弱点である遅さ、単調さが強調されるのは必然なのであった。
導入前、知己の店長には牙狼派も多数いた。伝統的に牙狼が強い地域だからという理由だけで大量導入を決めた店長もいた。彼らは「ちゃんと長時間の試打をすべきだった」と口を揃える。理論や分析に基づいた機種選定が当たり前となったことは、業界近代化の一環として喜ばしい傾向と言えるが、打感、魅せ方、演出とのマッチングといった観念的イメージは、いくら数字をこねくり回したところで見えるものではない。プレイヤーは打って、フィーリングで好き嫌いを決めるのである。機種選定担当者には、その当たり前の事実を忘れないでいただけると幸いである。自らがオモシロイと感じた台を、自信を持って導入してもらいたい。
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